Virtual VALERIE 2


 販売元:メディアカイト
  定価:8800円
動作環境:Mac, Win3.1, Win95



 「オルガスレイヴ」でもCGキャラと男優のセックスシーンはあったが、その相手になった女性は、もちろん化け物。ほんのワンシーン、人間の3DCGキャラクター同士の絡みもあったが、さすがに3DCGで作られたキャラクターに対して性欲を感じるのは難しい。しかし、この「Virtual VALERIE 2」は、そんな難題に真正面から挑み、それなりに成果を上げている作品だ。SEXの対象になる女性そのものを3DCGで表現するのは、アニメーションで、とても人間のバランスではないが、しかし異様にスケベな女の子を表現するのとはわけが違う。だいたい、3DCGによる美女、というもののレベルがまだまだ低いのが現状だ。「GADGET」におっさんしか登場しなかったのは、そういう理由にもよるのだ。
 この「Virtual VALERIE 2」に登場するヴァレリー嬢も、かつては二次元で描かれた、絵のキャラクターだった。スペースシップ・ワーロックを作ったマイク・セインツとジョー・スパークスの二人が、ワーロックに先駆けて、Dorectorによるマルチメディアタイトルの実験的に作った前作「Virtual VALERIE」から、5年の歳月を経て、その間、ジョー・スパークスはマイク・セインツの元を離れ、マイク・セインツが一人で作り上げたのが、この3Dの肉体を持つ、新しいヴァレリーだ。
 日本で発売されているバージョンでは、流石にモザイクがかけられているが、オリジナルでは、性器の細部に至るまで、精巧に作られていて、正にデジタル・ダッチワイフとでも言える存在になっている。
 前作では、情緒も色気もない、ただイヤラシイだけのSEXシーンは、作品全体から見ればオマケのようなもので、作品としての面白さは、エレベーターが動き、蛇口をクリックすれば水が出たり、スイッチを押せば灯が消えたり、本棚の本が閲覧できたり、といった細部へのこだわりにあった。しかし、どうやらそういう趣味は全てジョー・スパークスのものであったようで、実際、彼の新作「トータル・ディストーション」は、やはりそういう細部へのこだわりに満ちた作品に仕上がっている。一方のマイク・セインツは、ひたすらCGにこだわった人のようで、この「2」は、どこまで精巧なダッチワイフが作れるか、ということに挑戦したとしか思えない、執念のCG作品に仕上がっている。
 だから、ゲームとしては情緒のカケラもない、ひたすらあからさまな、女性イカセ系のゲームだ。ストーリーも何もない、ただ、いきなりヴァレリー嬢とセックスをするだけなのだ。しかも、彼女は、いきなり胸に挟み、口で咥え、足は開き放題で、何だかヘンなセックスマシーンに乗ってたりもする。もう、ひたすら、性欲へ奉仕するだけの(プレイヤーは奉仕させられるのだけど)存在。
 そして、恐ろしいことに、その身も蓋も無い彼女で遊んでいるうちに、彼女がセクシーに見えてくる。これは、もちろんCGの見事さの成果なのだが、情緒や色香を廃した構成も、この場合は成功しているのではないかと思う。最初からセックスの対象でしかない存在は、それが例え、肌の質感がとても人間とは思えなかったり、目がどう見てもただの絵だったり、身体の動きにしなやかさが欠けていたりしていても、男の欲望に奉仕できてしまう。それは多分ダッチワイフと本質的に同じなのだろう。どうしてダッチワイフというのが存在するのか、今一つ理解出来なかったが、このCD-ROMを見て、少し、分かりかけてきたような気がする。3DCGは決して現実をシミュレートするのではなく、妄想を現実化することに最も適した表現なのではないだろうか。
追記:後にMacFanに書いたエッセイも関連文章として、ここに掲載しておく。
 ヴァーチャル・ヴァレリーしか無かった。でもヴァレリーがあった。当時、アダルトソフトと言えば、98のアニメ系しか無い時代に、Directorで作られた、256色の、アニメ絵でない、インタラクティブな操作性を持ち、何だかやけにイヤらしいヴァーチャル・ヴァレリーは、アダルトソフトの頂点に燦然と光り輝いていた。そりゃね、セックスシーンには、何のニュアンスも情緒も無かったけど、そこにたどり着くまでのドキドキするような気分があった。エレベーターはボタンを押した階で止まり、蛇口をひねれば水が出て、ビデオプロジェクターがあって、本棚の本を見ることも出来て、そしてソファーに横たわるヴァレリー嬢と会話まで楽しむことが出来た。何てファンタスティックな体験だったことだろう。
 後にディレクターズカットとして、セックスシーンにちょっとした工夫がされたヴァージョンが登場し、さらには日本語版(この吹き替えが、大人の色香を漂わせて、なかなかのものだった)も登場した。いつまでも古びることは無かった。インタラクティブムービーと呼ばれるジャンルの最大の欠点、「目的を見失うとクリックすることが苦痛になる」という部分を、エッチの力で引っ張る構造で、見事にクリアしていた。他の細部が良くできているだけに、それは効果的だった。
 そして、ヴァーチャル・ヴァレリー2が登場した。ヴァレリー嬢は3Dの肢体を手に入れ、僕達を熱狂させた細部へのこだわりは、ジョー・スパークスと共にトータル・ディストーションとして花開いた。ヴァレリーは、マイク・セインツに殉じて、一層過激なだけのセクサロイドへと変貌を遂げ、そのニュアンスの無さに磨きがかかってしまった。そのあまりの情緒の無さは、既に爽快ですらある。情緒が無いことが、逆にストレートに想像力を喚起する。それだけの力を持った肉体を彼女は手に入れたのだ。男達の様々な思惑を後目に彼女は、今も、燦然と輝いている。
(納富廉邦)
(DOS/V MAGAZINE MULTIMEDIA 1996.04)

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