マンハッタン・レクイエム


 販売元:リバーヒルソフト
  定価:9800円(税別)
動作環境:Win3.1, Win95



 推理アドベンチャー・ゲームというのは、何故こんなに心をそそるのだろう。私がファミコンを購入したのは、「ポートピア殺人事件」をやりたいためだった。そして、その後も、次々とその手のゲームを求め続けた。どのゲームも、基本的には、「捜査は足から」的な、社会派ミステリか、おどろおどろしい猟奇物のどちらかで、推理というより、捜査アドベンチャーだった。個人的な好みとしては、推理による論理的な事件の解明を主軸にした本格物が好きなのだけれど、ドラマや映画で本格物が成功しないように、やはりゲームには、本格よりも、人間関係のドラマが殺人事件を通じて語られる、というスタイルの方が向いているのだろう。小説は本格一辺倒の私も、この手のゲームは楽しめる。推理アドベンチャー・ゲームの草分け的シリーズ、J.B.ハロルド・シリーズは、事件を通して、人間関係を描くスタイルに徹底した作品で、そこには推理の入り込む隙間は無いけれど、重厚なシナリオで、最後まで引っ張っていく力をもっていた。
 今回、シリーズ二作目の「マンハッタン・レクイエム」が、Windows95用CD-ROMとしてリニューアルされ、さらに、Windows95ミステリーセレクションとして、次々とミステリ・アドベンチャー・ゲームが発売されるらしい。

 この「マンハッタン・レクイエム」は'87年に発売されているのだが、今遊んでも、それほど古さを感じさせない。確かに同シリーズの最新作「ブルー・シカゴ・ブルース」と比べると、登場人物が実写ではなくイラストであることや、捜査で行う質問が基本的に同じ質問を全員に行うスタイルだったりと、ゲームシステムやグラフィックの部分では古さを感じないでもないが、イラストもカラーで書き直されているし、オープニングや告白シーンにはムービーが用意されていたりと、現状にあったリニューアルがきちんと行われている。何より、この手の作品は、ゲームシステムの古さなどは、ゲームの面白さとはそれほど関係ない。要はストーリーと演出が面白いかどうかなのだ。その点、この「マンハッタン・レクイエム」は、サラ・シールズという名を持つ三人の同姓同名の女性が、次々と自殺をするという魅力的なプロットが効いているし、女優の地位争い、麻薬、莫大な遺産相続、古いオルゴールの謎、さらにはかつての親友への疑惑などの、盛りだくさんな事件の背景をもっていて、飽きさせないストーリーになっている。物語という点だけで言えば、「ブルー・シカゴ・ブルース」よりもサスペンスフルだ。古い映画が、古いというだけでつまらなくなることが無いように、推理アドベンチャーも、古い新しいは、あまり関係ないのだ。

 事件は、J.B.ハロルドが手紙で相談を受けた少女サラ・J・シールズが自殺した所から始まる。その後、明らかになる同姓同名の少女達サラ・O・シールズとサラ・N・シールズの死と、サラ・Jの出生の秘密。サラ・Jの死体が握りしめていたオルゴールと、それにまつわる出生の秘密。40人を越える登場人物の全てが何らかの形で事件に関わっている、複雑な人間関係。三人の少女の死が、部分的に重なりながら哀しい結末へとなだれこむ。陰惨な事件ではあるが、ここまで書き込まれているゲームも珍しいだろう。しかしJ.B.って地道な捜査が好きなのね。
(納富廉邦)
(MediaDirect CD-ROM MAGAZINE 1996.03)

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