キネマの世紀 〜松竹映画のあゆみ〜


 販売元:オラシオン
  定価:8500円
動作環境:HYBRID仕様



 僕が生まれた1963年の6月、現市川猿之助の父である市川猿翁と、あの落語映画の名作「幕末太陽伝」を撮った監督川島雄三が亡くなっている。さらに同年、小津安二郎監督も没している。川崎市で日本初のオールナイト映画館がオープンし、テレビでは「鉄腕アトム」が人気を博していた。何とも凄い年に生まれたものだ。なんてことを、このCD-ROMに入っている年表を見ながら考えた。この「キネマの世紀」は、松竹が映画百年を記念して製作した、松竹映画のデータベースなのだが、年表にはちゃんと日活の川島雄三のことも書いてあるのは嬉しい。それにしても、松竹は、小津安二郎のCD-ROMや寅さんのCD-ROM、そして今回の松竹映画4000本を越えるデータベースをCD-ROMにするなど、一方で「釣りバカ日誌」シリーズをヒットさせてる会社とは思えないいい仕事をしてくれている。
 松竹映画といって僕が最初に思うのは、やはり田村正和の父、阪妻(「血煙高田馬場」好きだなあ、あ、これ日活だ)であり、加賀まりこ(「乾いた花」絶品)であり、倍賞姉妹(「喜劇・女は度胸」最高)であり、鰐淵晴子(「眠狂四郎・魔性の肌」あ、大映だった)であり、突貫小僧こと青木富夫(最新作「おかえり」の名演技を見よ)であったりするのだが、人によっては、寅さんだったり、黒澤明だったり(この人はどっちかというと東宝だな)、松坂慶子だったり、大島渚(新作にかかるって時に倒れちゃった。大丈夫だろうか)だったりするのだろう。一方で小津、溝口の両巨匠を抱えながら、大怪獣ギララやゴケミドロ(怖いよー)なんてのも作っていたというくらいの会社なので、そのあたりの奥の深さは凄い。大船調とか蒲田調とか云われ、なんとなくのんびりとした世界の印象が強い一方で、「東京物語」のような、とてつもなく厳しい映画があったり、大島渚、吉田喜重などの松竹ヌーベルバーグと呼ばれる過激な映画群があったりもする。
 そんな松竹だからこそ、このCD-ROMは見応えがあるものになっている。データ間の行き来が不自由なのが残念だが、押さえるべきデータは押さえてあるし、名作三十本分のポスターが収録されてるのが何と云っても嬉しい。あの「素浪人花山大吉」の近衛十四郎主演、マキノ雅弘監督3度目のリメイク作品「浪人街」のポスターが収録されてるというのは、本当に嬉しい。「浪人街」はムービーも入ってる。 映画のデータも、かなり詳しくスタッフ・キャストを載せているし、ムービーも100本収録、俳優や監督のプロフィールも充実して、内容的には文句なし。でも検索ができないのは残念。せっかく内容は申し分ないのにね。
 でも、このCD-ROMで1980年以降のデータを見てると寂しくなってくる。どうにか北野武、大島渚、高橋伴明あたりで持っているという感じだ(あ、阪本順治監督の「鉄拳」を忘れちゃいけないけど、スチール写真も載ってない、悲しい)。ま、それはそれ以前の、撮影所が正常に機能し、週に二本新作が封切られていた時代と比較するのが間違っているんだけれど、こうやって並列に並べられちゃうと、やっぱり気になってしまう。僕はチャンバラ映画マニアだということもあって、日本映画が大好きなので、いつもガラガラの映画館で見るのは寂しい。最近は篠崎誠監督の「おかえり」をはじめ、若い監督の気合いの入った娯楽映画が出てきたし、こういうCD-ROMも出た。これをきっかけに、日本映画にお客さんが入ってくれたらいいな、と本当に思う。
(納富廉邦)
(MediaDirect CD-ROM MAGAZINE 1996.05)

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