白夢 〜きよらかなる狂喜〜


 販売元:株式会社マックザウルス
  定価:5800円(税別)
動作環境: HYBRID仕様



 異界と現実の狭間を、様々な視覚効果と立体音響を駆使して描こうと試みた作品。竹薮や塀に貼られた妖怪画など、和風の魔界をイメージ的に表現していく。シナリオは、基本的には無いと言ってもいいほど、イメージ忠心で作られている。ときどき挿入される詩のような言葉の断片も、イメージの補助としての効果を上げ、物語というよりも、逢魔ヶ刻の異界の扉、とでもいうような「場」を感じさせることだけを目的にしている。
 全体のイメージは、しかし、「魔」というよりは耽美的で、実写で現れる幽霊的な存在は全て女性であり、奇怪なイメージは、妖怪画や芳年の無惨絵などをモーフィングさせて表現するため、それもまた耽美的なイメージになっている。百鬼夜行というよりも、美しさの表現の手段としての魔界だ。

 基本は、ただ見ているだけだが、ときどき、マウスクリックによってグラフィックが変容する。15分ほどで見終わる作品で、物語を味わうのではなく、ヘッドフォンで立体音響に身を任せながら、画面をボーッと見ている、という作品だ。そのため、インターフェイスもシンプルで、ときどきカーソルが変化したときに適当にクリックしてやるだけだ。付録に、作品ないで使われているムービーと視覚効果だけを独立して見せるプログラムが入っているので、それを見て、また再び作品を見ると、プログラムによる視覚効果の利用例として楽しむことが出来る。

 ローランド製のサウンドスペース・プロセッサRSS-10による3D立体音響は、ヘッドフォンを使うと、驚くほどの音の広がりを感じさせてくれる。音場の構築としては、ちょっと3D音響の効果を極端に使いすぎているのが残念。画像も、それぞれは美しくていねいに作られているのに、効果やイベントを見せすぎて、全体に慌てた印象になる。耽美な画面と音楽を作っているのだから、もう少しゆったりと流れる方が効果的だったと思う。

 京極夏彦がベストセラー作家となり、安達祐実が神主を演じるような、和風の怪異ブームの中で、異界と現実の狭間で一瞬見えてくるような世界を描くCD-ROMも登場したという感じだ。ただ、この手の世界を描くのに、この作品はややイメージに頼りすぎたように思う。細部の表現や、視覚効果のプログラムは優秀なのだから、シナリオを練ることも考えて欲しい。しかし、「場」を見せる映像実検としての試みは高く評価できると思う。
(納富廉邦)
(MacWorldJapan 1996.03)

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