THE DIG


 販売元:マイクロマウス
  定価:9800円(税別)
動作環境:DOS/V



 地球の周りに、突如として出現した小惑星アッティラ。このままでは、地球と激突する。激突で発するエネルギーは都市一つを壊滅させる威力があると推定された。そこで、科学者達は、惑星アッティラに核爆弾を仕掛け、その爆破の衝撃でアッティラの軌道を変える計画を立てた。
 その任務に携わることになったのが、宇宙飛行士を引退しようと考えていたボストン・ロウ。彼を隊長とした、爆破計画のクルーたちは、シャトルに乗り込み、惑星アッティラへと向かう。
 ここまでが、オープニングムービーで語られる内容だ。何というか、ありがちのストーリーだけど、そこはルーカスアーツ、3D映像とアニメーションを使って、飽きさせずに見せていく。最近の流行に背を向けるように、人物は完全な二次元のアニメーションなのだけれど、派手な場面展開と、ハリウッド映画的なカット割りで、ストーリーに引き込んでいく手腕は流石だ。かえって、アニメにしたことで動作速度も上がり、話をテンポよく進めるのに、効果を上げている。
 ゲームは、アッティラの軌道上に浮かぶシャトルから始まる。プレイヤーは、主人公である隊長ボストン・ロウになって、アッティラに爆弾を仕掛けるのが、最初の任務だ。クルーは全部で五人。そのうち、パイロットとコンピュータ・オペレーターの二人を除く三人が、現場のミッションを果たす。核爆弾を積んだ、PIGと呼ばれている自走式の輸送艇を携えて、三人はアッティラに降り立つ。精密な計算により決められた地点に爆弾を仕掛けるのだが、これが、ただ爆弾を置いてきて終わり、というわけにはいかない。爆弾を仕掛ける場所は、大きな岩が邪魔していたり、爆弾を仕掛けるだけのスペースがなかったりする。そこで、穴を開けたり、岩をどかしたりして、爆弾をセッティング。キーを使って作動させて、シャトルへと戻る。任務はこれで成功し、アッティラの軌道は変わる。クルー達は一度アッティラに戻り、惑星の調査をしようとするが、そこで、無人の小惑星に謎の人工物を発見する。発見した金属のプレートをパネルに並べたりしていると、不意に、惑星が動き出す。アッティラは惑星の形の宇宙船だったのだ。そして、ボストン以下三人のクルーは、見知らぬ場所へとたどり着く。ゲームは、ここから始まる。
 何か、SF作家グレッグ・ベアの小説と、スタートレックを混ぜたような不思議なストーリー展開だけれど、ここまで遊んだだけでも、このゲームの面白さは充分味わえる。とにかく、シーンの見せ方が上手いのである。画面は常に三人称で描かれ、主人公の視点ではないせいか、演出も非常に映画的。ロングショットを多用した画面は、宇宙や惑星の広さを感じさせてくれるし、インタラクティブ・ムービーやアドベンチャー・ゲームにありがちの、同じ様な画面が延々と続いて見飽きてしまうということがない。無理にバーチャル・リアリティにこだわらない姿勢が成功していると思う。アッティラの爆発を背に、反転して飛び去るシャトルや、惑星内の広大な空洞を、ふわふわと遊泳しながら移動するクルーたちを捉えた大ロングショットなど、見ているだけでワクワクする。美しい3Dグラフィックもいいけど、やっぱり、動きの美しさを見せてくれるものの方が、僕は好きだな。決して、この「DIG」のグラフィックが綺麗でないというわけではなく、シーンによっては、見事な3Dグラフィックスを見せてくれるのだけれど、そればかりじゃ、ゲームは楽しくないってことだ。
 ゲームは、その後、未知の場所の探索と、地球への帰還が目的となって進む。どうも、この場所の大気は、地球と似たものらしいことが分かり、彼らは宇宙服を脱ぎ、探索を開始する。正に「DIG(探索する)」である。
 このゲームのポイントは、とにかく何でも拾う、ということだ。アイテムを集めて、その時何に役立つのか分からなくても、持っていればきっと何かの役に立つのである。マウスの右クリックでアイテム・ウィンドウが開くインターフェイスも定番だが使いやすい。実際、マウスだけでほとんどの操作が楽に出来るインターフェイスは、秀逸。マウスカーソルの色が変化する所だけをチェックしていけば、何かを見逃すことが無いようになっているのも、親切で、変に難易度を上げるために、モノ探しを難しくしているゲームと比べて、楽しくプレイ出来る。
 局面局面では、パズルを解いて先に進むことになる。具体的なヒントはほとんど無いので、まず、それが何をするパズルなのかを推理するのが大変だが、パズル自体は、それほど難しくはないので、ゲームを進めるのにさほど苦労はしないと思う。そのあたりのバランスは、本当によく考えられていると思う。マニュアルにも「皆様がゲームを購入するのは、楽しむためであって、決してミスを犯すたびに頭を殴られるような思いをするためではない、と私たちは考えています」と書いてある。「何百回も死んだりするよりも、探索を行ったり発見をしたりしながらゲームの謎を解いていくほうがいいだろうと私たちは考えています」とも書いてある。これは、当たり前だけど大事な認識だと思う。特に、この手のストーリー性の強いものは、ゲーム中のトラップで死亡、ゲームオーバーが繰り返されると、ゲームそのものがイヤになるし、ストーリーの底の浅さも感じてしまう。この「DIG」は、その姿勢に基づいて、見事にエンターテイメントとして練り上げられていると思う。
 関係ないけど、このゲーム、やたらとシャベルで穴を掘る必要があるんだけど(そのせいで、クルーの一人を失ったりもするんだけど)、「DIG」って、土を掘る、って意味もあるんだね。クルー同士の会話も、ジョークの効いた楽しいものだし、雰囲気が明るいのも魅力の一つだ。
(納富廉邦)
(MediaDirect CD-ROM MAGAZINE 1996.03)

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