「謎のギャラリー」
「謎のギャラリー 特別室」
「謎のギャラリー 特別室 II」
北村薫著 マガジンハウス 各1400円(税別)

長い間探していた、あの名作が読める。アンソロジーの魅力と醍醐味を教えてくれる、デジタルコンテンツ作成への最高の教科書

 例えば、自分が好きな曲を集めて、カセットテープやMDに録音する。この作業は、なかなか楽しいので、だんだん凝りはじめて、気分が落ち込んだときに聞くテープとか、仕事用のBGMなどとテーマを決めて、それに沿った曲を集めるようになったりする。
 そうやってアンソロジー作りの深みにはまっていくと、他の人が作った似たようなテーマのテープなんかを聴いて、「やられた」と思ったりして色々大変なのだが、それがまた楽しい。そして、結局、どのくらい音楽を聴いているかが、そのまま、その手のアンソロジーを作る際の決め手になるんだな、ということを理解する。さらに、並び順、テーマの立て方などのセンスを磨くことも重要だ。音楽に関して、そういうことをするのを仕事にした人のことをDJと呼ぶし、短編小説やエッセイといった活字媒体のアンソロジーを編む職業もある。まあ、どちらも、それだけでは職業として成り立ちにくいから、そういう人は、基本的に趣味人であるのだけれど、そういうプロが作ったアンソロジーは、それはそれは魅力的なものなのである。それぞれが宝石のように輝いていて、しかも、入手困難なものが集められていて(簡単に入手できるものなら素人でもセンスだけで作れてしまうからね)、その並び順も、それ以外に考えられないというほどまでに洗練されている。だからこそ、中身は、それぞれの表現者の作品であるにも関わらず、アンソロジストの作品として感動することができる。
 北村薫の「謎のギャラリー」は、リドルストーリー(謎が謎として残る、解決のないお話)やこわい話、賭け事、あるいはゲームといったテーマを立てて、そのテーマでアンソロジーを組むなら、どんな短編小説を収録するか、ということを延々と語る本。有名無名の様々な物語が紹介されていき、その中で、こっちは採るけれど、こっちは採らないといった選択基準も明確に語られ、単に好きなものを集めました、ということではなく、好きなのはもちろんのこと、それ以上に何らかの理由がある、という物語が選ばれていく。
 さらに、その中で紹介され、しかも現在入手困難なもの、是非読んでもらいたいと思う作品を収録した「特別室」が二冊発売されている。この「特別室」がまた、順番や作品選定に対する神経が見事に行き届いたものになっていて、併せて読むと、アンソロジーというのはどういうものであるのか、ということが明確になる仕掛けになっているのだ。
 デジタルコンテンツは、アンソロジーを作りやすいメディアだけに、安直なものが多い。データベースだからといって逃げないで、この本読んで勉強しなきゃね。