雪崩連太郎全集
都筑道夫:著
出版芸術社
1900円

 地方や旧家に伝わる曰く因縁を取材し、ルポタージュを書くことを仕事にしている雪崩連太郎が、このシリーズの主人公。かつて、集英社文庫から出ていた「雪崩連太郎幻視行」と「雪崩連太郎怨霊行」の二冊に収録されていた13の短編と、その後雑誌に発表された2つの短編を合わせて、全15編、雪崩連太郎が書いたルポタージュの全てを収録した、という意味で、「雪崩連太郎全集」という書名が付けられたのが、この本だ。
 伝説や祟りなどを取材する雪崩連太郎は、基本的にはそういうオカルティズムを信じていない。仕事として、ルポを書くために、各地の怪異を取材し調査する。そこで出会うのは、神秘ではなく、人為による事件だ。本格ミステリと怪奇現象を結びつける手法は、昔からあるが、このシリーズでは、合理的に解かれた謎の向こうに、ポッカリと空洞が見えるかのように、解明できない部分が現れてくる。ふと気づくと、自分が立っている地面があやういものになってしまうかのような感覚を読む人に与える仕掛けになっている。
 この手法はサイコ・ホラーのもう一つ先のように思える。人間に潜む狂気を描くサイコ・ホラーに対して、事件そのものは合理的に、それこそ「幽霊の正体見たり枯れ尾花」的に解きあかされながら、解かれたときが謎の始まりになるような恐怖を描いている。
 最初に発表されてから17年になるというのに、今、このような形で全集が編まれて、全く古さを感じさせないどころか、充分怖い作品集。夏の夜のオススメ本だ。