「花咲ける青少年」(一〜十三巻)
樹なつみ:作
白泉社:刊
定価:各370円

 僕は男の子なので、実の所は少女マンガは分からない。少年マンガは、少年であろうとする意志の物語なのだが、少女マンガはそうではないようなので、ますます分からない。分からないから面白くないかというとそうではないのが、また不思議だ。
 樹なつみは、いつも男の子を描く。「マルチェロ物語」はタイトル通りマルチェロという男の子の解放の話だし、「朱鷺色三角形」「パッション・パレード」は、男の子の関係性の物語だ。「OZ」で、男の子の恋を描いた後、更に続いているのが「花咲ける青少年」なのだが、ここまでくれば、もう言わずもがな。青少年たちが、ヒロイン花鹿を狂言回しにその魅力を競い合いつつ成長するという、男の子の論理でまんま読める物語だ。まさに男の子のための少女マンガだ。でも完全に少女マンガだし、これが王道という気さえする。
 しかも、ハリウッド映画ばりの身分を越えた大恋愛ドラマを導入部に、物語は日本の普通の高校から一気に世界的な大財閥に舞台が飛び、更に国家レベルのクーデターにまで話は広がっていく。花鹿なんて、実は王位継承権第一位だったりもする。その話が大仰に展開するスピード感だけでも凄いのに、それでも話は常に個人に帰っていく。
 女の子は常に背筋が伸びていて、それを見て男の子は一生懸命成長していく。花鹿が女の子の理想であるとは思わないけど、こういう女の子は男の子を絶対成長させる。そういうのがいいなと思うのが男の子で、だけど「花咲ける青少年」は飽くまでも少女マンガのフィールドにとどまり続ける。
 そして、少女マンガとして、見事にBoy meets a Girlの物語となって完結。しかも、大仰な展開なのに、ひたすらハッピーな物語。凄い。