童話:だれかがよんでいる

 誰かが呼んでるような気がしたんだ。
 僕が寝てる部屋の天井のほうから、きこえたんだ。
「誰、僕を呼んでるのは?」小さな声で言ってみた。
「誰だ、俺を呼んでいるのは?」やっぱり天井の方から聞こえた。
「誰だ?俺を呼んでいるのは」また声だ。
 だんだん怖くなってきて、だからフトンかぶって寝ちゃったんだ、僕は。

 次の日、僕は一日中、天井を見てたんだ。
「なにをしているの?」おかあさんが言うから
「ねえ、天井の上にはなにがあるの?」って聞いてみたんだ。
「なんにもありませんよ」
 おかあさんはそう言ったけど、僕は天井裏に行く事に決めた。
 何だか、ドキドキしてきちゃったな。

 天井裏に上ったことなんて無かったけど、どこから上るのかくらい、僕だって知ってるんだ。怒られて、お母さんに押し入れのなかに入れられちゃった時、押し入れの上の方に小さな入り口みたいなのをみつけたんだ。あそこからなら、行けると思うんだ。

 ちょっと怖かったけど、僕は天井裏に上ったんだ。

 真っ暗でなんにも見えなくって、だけどなんだかワクワクしてきた。
 僕だけの遊園地にきてるみたいで、僕はすっかり嬉しくなっちゃったんだ。
 真っ暗な中にいろんなものが見えてきた。
 よくみると、ここにはなんだってあるみたいだ。
 ジェットコースターが目の前を走っていったし、そのむこうには動物園があるんだ。 
 僕は、すっかりここが好きになった。
 一人で遊ぶのもいいけど、今度はお向かいのユミちゃんも連れてきてあげよう。
 でも、ユミちゃんは弱虫だから、嫌がるかもしれないな。

 ぼんやり、ここでユミちゃんと遊ぶことなんかを考えてると、目の前にちっちゃな光が見えたんだ。真っ暗な中にポツンと光ってて、とっても不思議な感じだ。なんだろうって思った僕は、そっと光のほうに向かって進んでみたら
「俺を呼んでいるのは誰だ?」という声がして、びっくりした。

 びっくりしたけど、
「そこにいるのは誰ですか?」って、小さな声で聞いてみたんだ。
 だけど、僕の声はちいさすぎて聞こえなかったみたいだった。もう一回聞いてみようと思って少し近づいてみると、ガサッと音がして、僕はまたびっくりしちゃった。なんだか大きな怖いモノがいるみたいで、凄く怖くって僕は目をつぶっちゃって。でも、目をつぶると恐ろしい怪物がすぐ側にいるみたいで、もっと怖くなった。

 怖くないぞって一所懸命思いながら、目を開けてみたんだ。
 そして、光のほうをじっと見た僕は、
「なあんだ」っておもった。
 そこにいたのは、ちいさな、でも歳をとったネズミだったんだ。
「ぼうやかい?わしを呼んでいたのは?」そのおじいさんネズミはいったんだ。
「ううん、僕は声が聞こえたから不思議に思って上ってきたんです。」
「いいね、ぼうやは。わたしはもう自分では動けないんだよ。でもね、誰かがわしを呼んでるんだ。いかなくっちゃ!と思うんだよ。」
 ネズミのおじいさんの話は、難しくて僕にはよく分からなかったけど、とっても寂しいそうだって事は分かったから、   
「何をすればいいの?」って聞いてみたんだ。
「僕に出来ることはなんでもするよ」って。
「ありがとうよ、ぼうや」おじいさんは言ったんだ。
「でもね、もういいんだ。こうやってぼうやにも会えたんだしね。ただ、今思うと、いつも誰かが呼んでいたような気がするんだよ。それに応える事が出来なかった。というより、その声が聞こえなかったんだ。聞こえたときにはごらんの通りさ。こんなことをぼうやに言っても分からないだろうね。でも、ぼうやには、こんな思いをさせたくはないんだよ。」

 おじいさんの話は、やっぱり難しくて分からなかったんだけど、僕は、どうしてか涙がどんどん出てきて止まらなくなっちゃったんだ。

 部屋に帰っても、あのおじいさんネズミのことを考えてぼんやりしてた。
 そしたら、聞こえたんだ、僕を呼んでる声が。
 僕は、ユミちゃんの家に走っていきながら、おじいさんネズミの声を聞いた。「ぼうや、出番だぞ!」って。